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大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)43号 判決

東大阪市友井九五〇番地

原告

本沢亀治郎

右訴訟代理人弁護士

中江源

同市永和二丁目三番二三号

被告

東大阪税務署長

一柳正夫

右指定代理人検事

兵頭厚子

同訟務専門職

金原義憲

同大蔵事務官

山本昌二

阿部康雄

吉沢保

右当事者間の所得税更正処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が、原告の昭和四三年分所得税につき、昭和四五年一一月一三日付でした、総所得金額を七、六九一、五七七円、所得税額を二、六三八、三〇〇円とする更正処分(後に国税不服審判所長の裁決により一部取消されたのちのもの)のうち、総所得金額につき四、九三五、三七〇円、所得税額につき一、三四〇、七〇〇円を超える部分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、昭和四三年分所得税につき、昭和四四年三月一五日、別紙1の申告額欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は昭和四五年八月二四日付で別紙1の更正額欄記載のとおり更正し、そのころこれを原告に通知した。そこで、原告は同年一〇月二〇日被告に対し異議を申立てたが、同年一二月二二日付で被告はこれを棄却した。

2  そして更に、被告は同年一一月一三日付で、別紙1の再更正額欄記載のとおり更正(再更正)をし、そのころこれを原告に通知したので、原告は昭和四六年一月一二日被告に対し異議を申立てた。

3  原告は昭和四六年一月二〇日、右1の更正について、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、右2の再更正に対する異議申立てを同年三月四日付で審査請求したものとみなしてこれと併合審理したうえ、同所長は昭和四七年一月一四日付で別紙1の裁決額欄記載のとおりの裁決をし、原告はそのころ右裁決書謄本の送達をうけた。

4  ところで、右裁決により一部取消された後の右2の更正(以下本件更正という)には、原告の本件年度分譲渡所得の算出にあたり、昭和四四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法(以下法という)第三三条の二第一項の適用を誤り、その結果、原告の真実の総所得金額は確定申告額を下回るにかかわらず、これを過大に認定した違法がある。

よつて、本件更正における総所得金額七、六九一、五七七円のうち確定申告における総所得金額四、九三五、三七〇円を超える部分の取消しを求める。

二、請求原因に対する認容

1  請求原因1ないし3は認める。

2  同4については次に述べるとおりである。

三、被告の主張

1  原告の本件係争年分所得の内訳は別紙1の裁決額欄記載のとおりである。

2  右のうち、譲渡所得について

法第三三条の二による特例の適用をうけるためには実質的要件として、(1)当該資産の譲渡が一定の公共事業の用に供するためになされ、(2)当該資産の譲渡が、公共事業施行者から最初に買取り等の申出があつた日から六か月以内(当該資産の譲渡につき農地法第五条第一項による農林大臣の許可(以下転用許可という)を要する場合には、六か月にその許可申請の日から許可があつた日までの期間を加算する)になされたことが必要であり、手続要件として、その年分の確定申告あるいは修正申告の際、(1)申告書に右特例の適用をうけようとする旨を記載し、(2)大蔵省令で定める一定の書類を提出することが必要とされる。但し、右手続要件については、(1)右要件を欠いたことにつき止むを得ない事情があり、(2)右特例の適用をうける旨を記載した書類および前記大蔵省令で定める書類を提出すれば、なお特例の適用が認められることになつている。ところで、

(一) 原告は別紙2記載の各農地(以下本件土地という)を所有していたが、これらの土地について、大阪中央環状線の敷地用地として、昭和三六年ころから買い取りの話がもち上り、用地買収を担当した訴外財団法人大阪府開発協会(以下訴外開発協会という)は、昭和三八年三月二〇日原告に対し正式に本件土地買取りの申出をした。そして右申出にしたがつて、同年七月五日および同年八月五日に売買契約が締結され、訴外開発協会は原告から本件土地を代金総額一一、三二一、八三〇円で買受けることになつた。

(二) しかし、原告が本件土地の引渡に応じなかつたため、紛争が生じ、訴外開発協会は昭和四一年ころ、原告に対し、本件土地の所有権移転登記手続等を求める訴を大阪地方裁判所に提起したが、昭和四三年五月二四日両者間に訴訟上の和解が成立した。その和解の内容は、右売買契約が有効に存在していることを前提として、原告は、〈1〉本件土地につき転用許可申請手続を直ちになし、〈2〉右許可を得た後、直ちに訴外開発協会に対し所有権移転登記手続をなし、引渡をすること、訴外開発協会は、〈3〉右履行の完了をまつて原告に追加金(四、四七〇、一二四円)を支払うことというものであつた。そして、この和解に基づき、原告は昭和四三年八月五日農林大臣に対し転用許可申請をし、同年一二月三日右許可がなされ、右和解の内容は履行された。

したがつて、本件土地の譲渡年月日は、右許可のあつた昭和四三年一二月三日であり、訴外開発協会から最初に買取り申出のあつた昭和三八年三月二〇日から約五年八月を経過しており、転用許可に要した約四か月を考慮しても、特例適用の要件である六か月の期間を超えるものである。

(三) かりに、本件土地の買取り申出について、原告主張のように右和解成立の日になされたものと見る余地があるとしても、原告は本件年度分所得税の確定申告に際し、本件土地の譲渡による所得を一時所得として申告し、前記手続要件(1)、(2)を履践せず、また、異議申立の際「特定公共事業用資産の買取等の証明書」「公共事業用資産の買取り等の証明書」(乙第一・第二号証)を提出したが、右証明書等に記載された買取等の金額は一一、三二一、八三〇円であり、取得費等の控除前においても特例適用の要件たる一二、〇〇〇、〇〇〇円を下回るものであつて、特例適用をうける旨の記載およびその意思があつたとは言えない。また、手続要件を履践しなかつたことが止むを得ない事情によることの主張証明はなされなかつた。

(四) よつて、原告の本件年度分譲渡所得の額は、当初の売買代金と前記追加金の合計額から取得価格と譲渡費用を差引き、それを基礎に法第三三条第一項、所得税法第三三条、第二二条第二項第二号を適用して算出した三、五七七、〇一九円である。

(計算は別紙3のA―B)

四、被告の主張に対する認否および反論

1  被告の主張1のうち、譲渡所得については否認し、その余は認める。

2  同2の(一)のうち、本件土地買取り申出の日および昭和三八年七月五日に本件土地売買契約が成立したことは否認し、その余は認める。

3  同2の(二)のうち、原告主張の和解が当初の契約の有効な存在を前提していることは否認し、その余は認める。

4  同2の(三)について、原告が申告時に手続要件を履践しなかつたことは認めるが、これは法の無知によるものであつて、後に異議申立の際に所定の書類を提出しているので、法第三三条の二第四項による救済をうけうるものである。

5  同2の(四)のうち別紙3のAの計算の各金額は認める。

6  原告が訴外開発協会と本件土地の売買契約を締結した際近隣農地所有者の中には買取価額に不満を有し売り控えをする者がいたが、これに対し、訴外開発協会の代理人樋上健蔵は、将来訴外開発協会が近隣農地を原告からの買入れ価格である坪当り一七、〇〇〇円以上で買い上げることはなく、万一そのようなことがあれば、原告が右土地の売買契約を解除しても異議を述べないと約束した。しかるに、その後一年もたたないうちに訴外開発協会は近隣農地所有者から農地を坪当り三一、九〇〇円の価格で買い上げたので、原告は昭和四一年六月一八日前記契約を解除する旨の意思表示をした。

したがつて、本件訴訟上の和解は、当初の契約の存在を前提としておらず、右和解成立の日に訴外開発協会が新たな買取り申出をして、同日、原告との間に、転用許可を停止条件とする売買契約が締結されたと解すべきである。

7  以上のとおりで、原告の譲渡所得については、法第三三条の二および同法施行令第二二条の二による一二、〇〇〇、〇〇〇円の特別控除をうけるので、その額は七二七、〇一九円(計算は別紙3のA―C)となり、総所得金額は被告主張の総所得金額から原被告主張の譲渡所得の差額二、八五〇、〇〇〇円を差引いた四、八四一、五七七円である。

第三証拠

一、原告

1  甲第一ないし第三号証提出

2  原告本人尋問の結果援用

3  乙号各証の成立を認める。

二、被告

1  乙第一、第二号証提出

2  甲号各証の成立を認める。

理由

一、請求原因1ないし3については当事者間に争いがない。

二、原告の本件係争年分の所得のうち、譲渡所得以外の各所得の金額については当事者間に争いがなく、譲渡所得についても、その算出根拠たる売買代金、和解よる追加金、取得価額譲渡費用の各金額については当事者間に争いがないので、以下譲渡所得について法第三三条の二の適用があるか否かにつき検討する。

まず、右規定の適用をうけるためには、当該資産の譲渡が、公共事業施行者から最初の買取り等の申出があつた日から六か月以内(農地法第五条第一項による許可を要する場合には、右許可に要した期間を加算する)になされなければならないので(法第三三条の二第二項、同法施行令第二二条の二第二項第二号)、この要件を具備しているか否か考える。

1  原告が本件土地を所有していたこと、昭和三六年ころから大阪中央環状線敷地用地として同地の買い取りの話がもち上り、その後、右事業用地の買収を担当していた訴外開発協会から原告に対し、本件土地買取りの申出をして、その結果、売買契約が成立したこと、しかし、その後両者間に紛争が生じ、訴外開発協会は原告に対し土地所有権移転登記手続等を求めて訴を提起したが、それは昭和四三年五月二四日被告主張のとおりの訴訟上の和解が成立して、解決したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、本件土地についてはいずれも昭和三八年三月二〇日訴外開発協会から原告に対し買取りの申出があり、別紙2の1ないし4の各土地については同年七月五日、同5ないし8の各土地については同年八月九日それぞれ売買契約が締結されたことが認められる。

2  そして、前記和解条項に、成立に争いのない甲第三号証原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は訴外開発協会がその後隣接土地を同じ右環状線敷地用地として本件土地よりも高価に買上げたために、それ以前に一たん売買契約を締結している本件土地についても転用許可申請手続、所有権移転登記手続をしようとしなかつたこと、そこで、開発協会は右各手続を求めて前記訴を、提起したこと、しかし当時原告の不満は売買価額の点にあり、本件土地を売渡すこと自体に異議があつたわけではないので、原告は四、四七〇、一二四円の追加金の支払を受けることで、すみやかに許可申請手続、所有権移転登記手続、本件土地の明渡をなすことを承諾し、かくて両当事者間に前記訴訟上の和解が成立したことが認められる。

3  右事実によれば、本件訴訟上の和解は、昭和三八年七月五日ならびに同年八月九日、の売買契約が有効に存在することを前提として、その後の紛争を解決したものと解するのが相当である。原告は、当初の売買契約において、約定解除権が保留されており、本件訴訟上の和解は、右契約が解除されたことを前提としていると主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

4  以上によれば、最初に訴外開発協会から原告に対し本件土地の買取り申出があつた年月日は昭和三八年三月二〇日であるといわざるを得ず、本件譲渡年月日は、農林大臣から転用許可のあつた昭和四三年一二月三日である(この点は当事者間に争いがない)から、転用許可のために要した約四か月(この点も当事者間に争いがない)を差し引いても、法第三三条の二を適用する要件である六か月を超過することは明らかである。

よつて、本件においては、その他の要件を考えるまでもなく右法第三三条の二を適用する余地はない。

なお、法第三三条の二による特別控除の趣旨は、公共事業用資産の取得を円滑にし、当該事業の予想する公共目的の遂行を速やかにするため、右資産の早期譲渡に協力した者を特に税制面において優遇しようとするものであるから、本件のように買取りが紛糾し、長期化したものについては、その適用がうけられないとしても、やむを得ない。

三、結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官 富越和厚)

別紙1

〈省略〉

別紙2

本件土地明細

〈省略〉

以上

別紙3

〈省略〉

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